極めて暗いシーンをビデオ撮影するためには,大口径の明るいレンズとフォトンカウンティングレベルの高感度・低ノイズイメージセンサが不可欠です.国際宇宙ステーションから見たオーロラや野生生物の生態の動画のように,無照明下で微弱光を鮮明なカラー動画として捉えたい局面は多くあります.技術革新の結果,CMOSイメージセンサのノイズは0.3電子RMS以下にまで減少し,従来微弱光撮影に使われてきた電子増倍型CCDイメージセンサ(EMCCD)の性能を凌駕したフォトンカウンティング領域に入りつつあります.鮮明な像を捉えるためにはより多くのフォトンをイメージセンサに入射する必要がありますが,レンズを明るくするには収差と重量の増加を伴い,製造が難しくなる上,極めてピントが合わせにくくなるため,簡単ではありません.本研究では,F/1.2程度の明るいレンズと低ノイズCMOSイメージセンサを複数並べたマルチアパーチャカメラ構造を用い,得られる画像群を合成することで,F/0.1〜0.4といった単一のレンズでは達成困難な超高感度カラービデオカメラの実現を目指しています(図1).当研究室の高性能カラムADCを利用したノイズ1電子RMSの超高感度低ノイズCMOSイメージセンサを用いて,実証機の試作を進めています(図2).さらに,当研究室の新技術である高変換利得浮遊拡散層アンプによるノイズ0.27電子RMSのフォトンカウンティングレベルCMOSイメージセンサを適用した場合の検討も行っています.
図1:超高感度を目指した単一レンズカメラとマルチアパーチャカメラの比較.
| 図2:超高感度マルチアパーチャビデオカメラ実証機.
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CMOSイメージセンサはCCDイメージセンサと異なり,画素毎に能動アンプをもちます.そのため,ノイズの大きさが画素毎に異なります.また,トランジスタの微細化に伴い,random telegraph signal (RTS)ノイズと呼ばれる極めて大きいノイズを発するトランジスタの割合が徐々に増加していることが問題となっています.マルチアパーチャカメラの画像を1つに合成する場合に,あらかじめ計測した画素毎のノイズの大きさに基づき,ノイズが最小となるように最適な画素を選択する選択的平均法を提案しています(図3).図4に,マルチアパーチャカメラのうち1つの画像(raw)と,全アパーチャの全画素を用いた単純平均,ノイズの事前計測情報を元に最適な画素のみを用いる選択的平均の結果を示します.(図2のプロトタイプカメラに従い,白黒は3×3レンズ,カラーは2×2レンズの場合を示しています)選択的平均法では,合成によりS/Nが向上しているだけでなく,単純平均に見られる輝点状のノイズが除去されていることがわかります.
図3:選択的平均法.
| 図4:マルチアパーチャ画像のうちの1枚,単純平均,選択的平均の画像比較.
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超高感度カメラ,監視カメラ,バイオイメージング.